ハージェント家の天使
「マキウス、お前という子は……!」
 言葉では嫌がりつつも、マキウスはヴィオーラに撫でられるままになっていた。
 ヴィオーラはひとしきりマキウスを撫でると息をついたのだった。
「それにしても、マキウスが素直になるなんて珍しい事もあるものです。打ち解けるには、もっと時間がかかると思っていました」
「それは、モニカの仕業です」
 マキウスは冷めた紅茶ーーアマンテが用意をしててくれた。を飲んだ。

「モニカさんの?」
「ええ。モニカに言われたんです。きちんと話すようにと」
 ヴィオーラは目を開くと微笑んだ。
「マキウス、モニカさんの事は好きですか?」
 最近、どこかで似たような質問をされたと思いながらも、マキウスは強く頷いた。
「……ええ。好きです。愛しています」
「モニカさんにちゃんと伝えましたか?」
「姉上?」
 マキウスが首を傾げた。

「女というのはですね。大丈夫とわかっていても、時折不安になるのです。自分は愛されていないんじゃないか。自分はここにいてもいいのか。と」
 ヴィオーラは指先でカップの淵をなぞった。
「女から聞く者もいますが、私と話した限りモニカさんはそのような人には見えません。ニコラさんがいるからかもしれませんが、モニカさんは見た目に反して、ずっと大人な気がします。……私達より若いのに」
「そうですね」
 ヴィオーラに言われてみれば、マキウスはモニカの年齢は知っているが、今の『モニカ』の年齢はいくつなのだろうか。
 女性に年齢を聞くのは失礼に当たるが、後ほど聞いてみようか。

「貴方に結婚するように命じたのは、地方騎士から王都の小隊の副官という昇進で起こるであろう、他の貴族達からの反発を抑える為。特に母の生家であるロードデンドロン家からの反発を抑える為でした」

 地方の騎士団から王都の騎士団に行くには、功績の積み重ねが必要になる。マキウスのように、騎士団に所属して数年で引き抜かれるのは珍しいらしい。
 爵位が上がるか、王都に関係する大きな功績を挙げたのなら別だが。

 だが、それがただの昇進ではなく、「条件」付きの昇進なら話は別である。
 その「条件の内容」は、その都度、人によって変わるが、共通しているのが、「国にとって功績となる内容」であった。
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