ハージェント家の天使

丸い空の向こう側

 ヴィオーラが遊びに来た日の夜。
 モニカは魔法石に魔力を補充してもらう為、マキウスの寝室にやってきたのだった。
 最近は、魔力を補充してもらう為に、お互いの部屋に行き来する回数が増えていた。
 先に用事を済ませた方が、相手の部屋に行く。
 それが2人の間で、暗黙の了解になっていたのだった。

「失礼します。マキウス様」
 モニカが扉を開けるが、マキウスからの返事はなかった。
 その代わりに、バルコニーから灰色の影が見えていた。
 モニカは部屋に入ると、バルコニーへと向かったのだった。
「マキウス様?」
「……モニカですか」
 マキウスは顔を背けて、ムスッとしていたのだった。
 昼間、モニカがヴィオーラに抱きついているところにやって来たマキウスだったが、ヴィオーラの去り際に「お姉様〜!」とモニカが大きく手を振っていたのが気に入らなかったらしい。
 ヴィオーラが帰ってから、ずっと不貞腐れていたのだった。

「マキウス様……。まだ嫉妬しているんですか?」
「嫉妬など。私はしていません」
「……本当に?」
「本当です」
 ムキになるマキウスの隣に行くと、モニカはバルコニーの手すりを掴んでいた腕に軽く寄りかかった。
「嘘ですよね。私とヴィオーラ様が仲良くしていたのが悔しかったんですよね」
 ヴィオーラもモニカも、マキウスにとっては大切な存在。
 姉に妻を、妻に姉を取られたように思ったのかもしれない。
 弟ならではの心情だろう。
 マキウスが黙っているのが、その証だった。
「お姉様とどんなに仲が良くても、私が1番好きなのはマキウス様です。それだけは忘れないで下さいね」
「モニカ……」
 マキウスは昼間にヴィオーラに言われた事を思い出したのだった。

「私も貴方の事が好きですよ。……愛しています」
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