ハージェント家の天使
「マキウス様……!」
 モニカは目を丸く見開いた。
 顔を赤くしたマキウスは「それにしても」と、モニカから身体を離すと話題を変えたのだった。
「貴方のおかげで、姉上と話す事が出来ました。感謝しています。……ありがとうございます」
 マキウスが下げた頭に、モニカは片手で口元を抑えた。
「それは良かったです」
 モニカはフフッと笑った。
 ヴィオーラとマキウスが、自分の思いをちゃんと話せたのなら良かった。
「私が勝手に思い込んでいただけだったようです。姉上は姉上で、私の事を思っていたみたいです」

「マキウス様、誰かとの間に壁を感じた時、それは相手が壁を作っているのではなく、自分が壁を作っているらしいですよ」

 マキウスは両眉を上げた。
「そうなんですか?」
「自分が壁を越えて相手に近づかなければ、相手はやって来ない。もし、お互いに相手を理解したいと思っているのなら尚更」

 片方だけが相手に近寄っても駄目。相手が壁を作っていたら近づけない。
 けれども、自分も壁を越えて相手に近寄ったら相手に近づける。
 そうやって、ひとは分かり合えるのだろう。

「私とマキウス様がこうやって話しているのも、お互いに壁を越えて相手に近寄ったからだと思っていますよ」
 モニカが微笑むと、マキウスは優しく見つめていた。
「時折、貴方が私よりも大人に思えます。まるで、姉上と話しているようです」
「ん〜。そうですか? 『私』と同じ歳でもお姉様の方がずっと大人な気がします」
「やっぱり貴族で騎士だからですかね」と笑うと、マキウスはギョッとしたのだった。
「……貴方と姉上は同じ歳なのですか?」
「ええと、お姉様ってマキウス様より2歳上なんですよね? マキウス様は24歳と聞いていたので……。という事は、お姉様は26歳ですよね? 私も26歳でしたから」
 この世界に来るきっかけになった階段から落下した時、モニカはーー御國は26歳だった。

「そ、そうだったんですね……」
「でも、そんな『私』よりも、マキウス様の方がしっかりしています。私がマキウス様の歳の頃なんて、まだまだ甘えていましたからね」
 モニカは自分がーー御國が24歳だった頃を思い出した。
 まだまだ、周囲に甘えていたような気がした。
「私など、まだまだ未熟者です」
「そうですか? そんな事はないと思いますよ」
 そうして、2人は空を見上げた。
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