ハージェント家の天使
「せっかくなので、普段から身につけて下さい。ああ……、それと、魔法石の指輪を、一度預かってもいいですか?」
 マキウスはモニカの左手を取ると、魔法石の指輪に触れたのだった。
「それは、構いませんが……?」
「今の内に、魔法石の指輪を別の装飾品にしましょう。もっと身につけやすいような形に」

「そうですね。わかりました」
 モニカが指輪を外そうとすると、マキウスは遮ったのだった。
「それは後にしましょう。それよりも、起きるには、まだ早い時間帯です。私はもう一度寝ますが、一緒にいかがですか?」
「一緒にって、それって……」
 モニカが戸惑っていると、マキウスはベッドに入ったのだった。
「この部屋は元々、夫婦の寝室として用意しました。さすがに、1人で寝るのも寂しいものです」
 マキウスはモニカのガウンを脱がせると、ベッド脇に置いたのだった。

「少しの間だけです。何もしませんので、一緒にいかがですか?」

 モニカは逡巡したが、マキウスの懇願とベッドの誘惑に耐えきれなかった。
「……はい」
 そうして、モニカはベッドに入ると、マキウスの隣に横になった。

 まだ寝足りなかったのか、マキウスはすぐに寝息を立てたが、モニカは緊張してなかなか眠れなかった。
 やがて、2人はマキウスを起こしにきた使用人の驚いた声で、起きる事になるのだった。

「マキウス様?」
 その日の夜、モニカはおずおずと寝室に居るマキウスの元にやってきた。
「モニカ? どうしましたか?」
 マキウスはソファーに腰掛けて、本を読んでいた。
 モニカに視線を移すと、大きく目を見開いたのだった。
「今日は魔法石が無いので、魔力の補充は必要ありませんが……?」
「そうなんですが……。なんだか、落ちつかなくて」
 マキウスは口元を緩めると、本を閉じたのだった。
「せっかくなので、部屋に入って下さい。今、窓を閉めますので」
 マキウスの言葉で、モニカはバルコニーに続く窓が開いている事に気づいたのだった。
「それなら、バルコニーでお話ししませんか?」
 モニカはバルコニーを指したのだった。

 2人がバルコニーに出ると、ひんやりと冷たい夜風が吹いてた。
 モニカが肩からずり落ちそうになったガウンを押さえていると、マキウスが掛け直してくれたのだった。
「ありがとうございます」
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