ハージェント家の天使
「そんな事はありません。皆さんが優しいからですよ!」
 モニカが照れると、マキウスも小さく微笑んだのだった。
「謙遜しないで下さい。その魔法石ですが、姉上より『私の代わりに引き取りに行って欲しい』と、伝言を言付かりました」
「お姉様が? どうしたのでしょうか?」

 ヴィオーラによると、明日の休暇の際に、工房まで取りに行く予定だったが、急な来客があるので、出掛けられなくなってしまったらしい。
 そこで、代わりにマキウスに取りに行って欲しいとの事だった。

「姉上から、職人がいる工房の場所を聞き、加工の代金を預かってきました。モニカ、一緒に行きませんか?」
 恥ずかしながら、マキウスには魔法石の加工に必要な費用を用意出来なかった。
 それをヴィオーラに相談したところ、ヴィオーラが大切な弟と義妹《いもうと》の為にと、加工に必要な費用を全額用意してくれたのだった。

「私も一緒に行っていいんですか!?」
 モニカが目を輝かせると、マキウスは頷いたのだった。
「当然です。婚姻届を提出しに行った際は、王都の中心部を案内しきれませんでした。
 なので、今回は魔法石を引き取りに行きながら、案内しますよ」
「夫婦になってから、初めてのデートですね! 楽しみです!」
 モニカの言葉に、「そういえば」と、マキウスも気づいたようだった。
「言われてみれば、そうですね」
「はい。やはり、子育てをしていると屋敷に籠りがちになってしまいますからね。たまには刺激も必要です」
 モニカが最後に屋敷の敷地内から出たのは、マキウスと婚姻届を提出しに出掛けた時だった。
 屋敷内の庭ならたまに散歩をしていたが、屋敷の敷地から外には出ていなかったのだった。

「刺激ですか……。それなら」
 マキウスはモニカの隣にやってくると、腰の辺りに腕を回して、身体を引き寄せた。
 顔を近づけると、モニカの耳朶を甘噛みしたのだった。
「ま、マキウス様!?」
「じっとしていて下さい。顔が近いので、頭に声が響きます」
 眉間に皺を寄せたマキウスは、またモニカの耳朶を甘噛みした。
「ん〜〜!」
 モニカは身を捩って離れようとしたが、マキウスの力は緩まなかった。

 モニカがマキウスに口づけた日から、このようにマキウスからモニカに甘えてくる日が増えたような気がした。
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