ハージェント家の天使
 よほど、モニカから口づけされたのが悔しかったのか、男としてのプライドを傷つけてしまったか。
 マキウスはニコラや使用人達が居ない、寝室で2人きりになる夜に、こうして甘えてくる事が多かったのだった。

(気を許してもらえたのかな?)
 モニカ自身は恥ずかしいが、普段からきっちりした真面目なマキウスのひと時の安らぎになるならばいいかと、モニカはそのままにしていたのだった。
 マキウスが頬に口づけた。
「んっ!」
 モニカは思わず、声を上げたのだった。

「もっと声を聞かせ下さい」
「えっ?」
 モニカはドキリとして、ネグリジェの胸元を押さえたが、マキウスはモニカの脇に触れてきたのだった。
 そのまま、モニカの脇に指を這わせたのだった。
「ど、どこを触っているんですか……!?」
「止めて下さい!」と、モニカは目尻に涙を溜め、笑いながら身を捩った。
「ほう。モニカはここが苦手なんですね」
 マキウスは目を光らせると、モニカをくすぐり続けたのだった。

 2人はしばらく続けたが、モニカが肩で息をしていると、マキウスは指を離した。
 それでも、モニカを抱きしめる手は緩めなかったが。
「もう、マキウス様!」
 モニカは顔を真っ赤にして叫ぶが、マキウスは笑っていたのだった。
「ははは。最近の疲れが、癒されました」
 普段の大人びた顔とは違い、年相応な笑みを浮かべるマキウスは、モニカを抱きしめた。
「また、お願いしますね?」
「もう……」
(もしかして、マキウス様って悪戯っ子なところがあるの?)
 それとも、甘えられているのかもしれない。
 マキウスはヴィオーラとアマンテ姉妹から見て末っ子だったから。
 モニカのやや呆れた顔に、マキウスはまた笑ったのだった。

「明日は出掛けるんですよね。じゃあ、そろそろ休みましょう」
「休むには、まだ早い気がしますが……」
 モニカはマキウスを無視すると、机に置いていた本を手に取った。
「マキウス様。さあ、ベッドに来て下さい」
 モニカはベッドに入ると、隣をパシパシと叩いた。
 ベッド脇の明かりを残して、室内の明かりを消したマキウスが隣に入ってくると、モニカは持っていた本を開いたのだった。
「モニカ、それは?」
「せっかくなので、読み聞かせの練習に付き合って下さい」
 モニカの手元を覗いてくるマキウスに、モニカは本を見せたのだった。
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