その呪いは、苦しみだけではなく。
「おい」
いつまで手を合わせていたのだろうか。
たらればの話から、明後日のお見合いのことまで考えていたら、低い声がした。
顔を上げると、学生服の少年が私を見下ろしていた。眉間に皺を寄せ、不機嫌を隠す様子もない。
「おいって言ってんだよ」
苛立ちをぶつけるように声を荒げると、その少年は信じられない行動をした。
私が今、供えたばかりの花束を踏みつけたのだ。
「やめてっ」
何度も何度も踏みつける。
店長さんが心を込めてラッピングしてくれた花。ヒラヒラと花弁が散っていく。
「やめなさいっ」
両手で花束を庇うと、彼の足は踏みつけようとしたポーズのまま、固まった。
「どんな花束かも知らずに、なんてことするのっ」
散らばった花弁をかき集めていると、今度はお菓子を蹴飛ばした
「邪魔なんだよ。ここに菓子があるのが苛々すんだよ」
林檎や蜜柑も蹴飛ばそうとするので、慌てて拾う。
拾いながら、涙がこぼれ落ちた。
十八年前、ここでどんなことがあったか、もう誰も知らないんだ。もう誰も覚えていないんだ。
「ここを通る度に、菓子やら蜜柑やら花やら、いい加減にしろよ。うぜえんだよ」
「……貴方に関係ないでしょう」
花弁を集めていると、擦り剥いた手が赤く腫れている。
涙をこぼしながら少年を睨み付けると、少年は一瞬たじろいだ。
「赤の他人の貴方には何を言っても理解できないように、私には貴方の行動がとても非道で人間の心もないように感じる。最低ね」
花弁を集め再びガードレールの下へ並べた。蜜柑や林檎も並べて、そしてアスファルトに何度も何度も涙が落ちて、小さなシミを作っていく。
とても虚しく、寂しい気分だ。
私の十八年を、赤の他人に否定されただけなのに、心がバラバラになりそうなほど痛んだ。
「泣くなよ。花束なんか、意味がないって」
「……ご忠告どうも」
「俺のせいで泣くなってば」
帰ろうとする私の手を掴んできたので、乱暴に振り払った。
「触らないで。警察を呼びますよ」
「呼べばいいだろ」
手首を押さえて睨み付けると、彼は乱暴に髪を掻き、視線を彷徨わせ、苛立ちを隠せずにいる。
彼の着ている高校は、私が通った商業高校だ。この県内で一番可愛くない、セーラー服。学ラン姿の少年は、ボタンも外し、ズボンも着崩しだらしがない。
一回りも離れた子どもの行動に、いちいち反応するのも馬鹿らしい。私も小さく謝った。
「私も気が動転したわ。次からはお互い、話しかけないようにしましょう。目をつぶり合う方が苛々しないでしょう」
では、と離れようとする私の腕を再び彼は掴む。 一体彼は、何が気にくわないのだろうか。
気にくわない私の手を掴むのは、なぜなのだろう。
私を見つめる少年を、見つめ返した。