その呪いは、苦しみだけではなく。

 どうして彼は、泣き出しそうな怒っているような、子どもみたいな顔をしているの。

「なんか十年ぐらい前に歌でもあったんだけど、まじでそんな感じ」
「はあ?」
「こんな場所に花束置いたって、居るわけねえじゃんって事」
「ーー何を言ってるの?」
「此処にはもう一欠片もいねえのに、毎月毎月、花束置いてあってさ。すげえ苛々した。馬鹿じゃねえのって。なんでーー俺は」

 少年は涙を流した。
 自分でもどうして苛々しているのか、悲しいのか、怒っているのか分かっていない。
 何も分かっていない。
 何も覚えていなかったんだ。

「泣かなくて良いの。私は大丈夫だよ」

 ハンカチを取りだして、涙が伝った頬を抑えてあげた。

「貴方がそう言うのであれば、もう来ないから」
「なん、で」
「お見合いするの。祖母の遺言でね。だから、大丈夫なのよ」

 大丈夫。
 大丈夫。
 なぜ、目の前の彼が泣いているのかは分からない。なんで怒っているのはも分からない。
 ただただ、自分のせいだと深く傷ついている様は見たくなかった。

「美織」

 小さく呼ぶ、私の名前。
 なぜ少年が私の名前を呼ぶのかは、分かっていたけれど、知らないふりをした。

「美織!」

 もう一度名前を呼ばれたけれど、振り返らなかった。
 振り向いてはいけない。わかっている。

「祥吾くん、何してるのー」
「祥吾先輩、どうしたんですかあ」

 女の子が二人駆け寄ってきて、彼を心配しているのが伝わってきた。
 なので振り返らずに、私は急いでタクシーを拾ってその場を去った。
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