解けない愛鎖
そのとき、不意に左手に振動を感じた。
パッと即座に持ち上げたスマホの画面に浮かび上がっているのは、ヒロキの名前。
三度目の着信に、胸が動悸した。
繋がらないあたしに連続で三回もかけてくるなんて、ヒロキらしくない。何か緊急事態かもしれないから、出てみようか。
だけど、出たらきっとヒロキのペースに流される。
彼との未来のために、無視したほうがいい。別れてから一年も連絡をせずに頑張ったのに、ここで出てしまっては全てが水の泡だ。
理性的な自分が制するけれど、指先の震えと動悸は止まらない。
一年間ずっと心の奥に閉じ込め続けてきたヒロキを好きな自分が、鍵の付いた蓋をこじ開けて今にも飛び出してきそうだった。
途切れるのを待っても鳴り止まない着信に、心が乱れて揺れ動く。
少し話すだけなら、大丈夫かもしれない。
少し話して、直接ヒロキに結婚のことを伝えよう。それだけなら、きっと大丈夫。
何度も心の中で言い訳してから、ついに親指が通話ボタンをタップする。