解けない愛鎖
全力疾走なんて、ひさしぶりだ。
コンビニの雑誌コーナーの前。磨りガラスの向こう側に見えたのは、一年前に別れたときと変わらないヒロキの姿だった。
「リナ、見つけた」
ガラス越しに目が合ったヒロキが、ふふっと緩く笑いかけてくる。
「今からそっち行っていい?」
ヒロキに低い声で少し甘えるようにささやかれて、拒否できなかった。ヒロキだって、それを見抜いてて試してる。
少し話すだけ。そう思って電話に出たはずなのに。
声を聞いてしまったが最後。それだけで終わるはずなんてなかったんだ。
「待ってる」
頷いたあたしの脳裏に、優しく微笑む婚約者の彼の顔が過ぎる。
わかってる。少しだけ。本当に、少しだけだから。
右手で左手の甲を覆うと、胸をチクチクと刺してくる罪悪感を押し込めた。