解けない愛鎖
「バカにしに来たなら帰って」
「バカになんてしてないよ。ちゃんとよかったなーって思ってる。俺がどんなにリナのことを好きでも、リナが望むようなしあわせみたいなものは、きっと与えてあげられないから」
テーブルに置いたワイングラスをつかむ手を震わせるあたしを、ヒロキが憂いを帯びた目で見つめる。
それは付き合っていた頃にあたしを好きだ、と言ってくれた目とよく似ていて。あたしの心を惑わせた。
「嘘吐き……」
せめてもの抵抗、とばかりにヒロキを睨む。だけど。
「リナだって、嘘付いてるくせに」
あたしの心を見透かすようなヒロキの笑みに、ヒヤリとした。
ワイングラスを置いたヒロキが、ソファーから腰を浮かせてテーブルの上に乗り出してくる。
すっ、と伸ばされたヒロキの右手の人差し指が、あたしの首元で揺れるネックレスのチェーンを軽く引っ張った。
「これ、今も着けてくれてるんだ?」
口角を緩くあげたヒロキの人差し指の先に引っかかっているのは、サークルモチーフのブランド物のネックレス。一緒に住み始めた初めての誕生日に、ヒロキがプレゼントしてくれたものだった。