解けない愛鎖
「俺も気に入ってるから。これ」
あたしの視線に気付いたヒロキが、意味ありげにふっと息を漏らす。
あたしのことを笑っているような、からかっているようなヒロキの顔をジッと見つめていると、彼がネックレスに引っ掛けた指を強めにひいた。
同時に顔を寄せてきたヒロキと、唇同士が軽く触れ合う。
フルーティーで少し苦いワインの味。それに混じった知らない香水の匂いに、あたしは僅かに眉を顰めた。
「結婚する前に、今夜だけ、リナのこと俺にくれない?」
低い声でささやいたヒロキが、もう一度唇を重ね合わせて舌を絡めてくる。
二回のキスを簡単に許してしまったあたしは、テーブル越しに乗り出してくるヒロキの胸を慌てて押し返した。
「何言ってるの……?一緒に飲むだけだ、って……」
「リナこそ、何言ってんの?ほんとにふたりでワインを飲むだけのつもりで、俺をこの部屋に入れたの?」
ヒロキがあたしの左手をつかんで、その掌に口付ける。そうしながらあたしを見上げた彼の瞳は、妖しく揺れていた。