解けない愛鎖
目の前のヒロキは、何もかも以前と変わらないけれど。ただひとつ、纏う香りだけが違う。
今夜の彼は、この香りを知っている誰かを裏切ってあたしの元に来ているのだ。
そう思うと、不意に小さな劣情が芽生えた。
あたしには彼がいるのに。ヒロキはもう、あたしのものなんかじゃないのに────。
「この匂い、嫌い……」
キスを続けようとするヒロキを拒絶してつぶやく。
自分でもはっきりとわかるくらいに、嫉妬の感情を孕む声。それを聞いたヒロキが、あたしの耳に唇を寄せて息を吐くように笑った。
「全部洗い流せば許してくれる?」
許すって、何を?誰を?
「絶対に今夜だけって約束するから」
こんなときだけ、ひどく愛おしげにあたしを見つめてくる彼は、あたしがどうすれば陥落するか。そのやり方を心得ている。