解けない愛鎖




ヒロキが去ったあとの部屋は、自分の部屋なのに、やけに広く感じた。

さっきまで火照るように熱かった身体が、今は凍えそうなほどに冷えている。

お風呂を沸かして湯船に浸かったあたしは、ヒロキが身体中に残していった紅色にため息を零した。

おそらくきちんと計算して、見えないギリギリのところにつけられたであろう沢山の紅が、もう会うことはないヒロキの熱を思い出させた。


『これが全部消えてなくなるまで、俺のことを想ってればいいよ』

あたしの身体に唇を這わせながらささやいたヒロキの言葉を思い出して、身を震わせる。

身体が少し火照りを取り戻すのと同時に、ふと湧き上がった婚約者の彼への罪悪感があたしの胸を苛んだ。


ヒロキに言われたとおり、この痕が消えるまでは……

いや。消えてしまっても、彼への後ろめたさは一生消えない。

それでも、ヒロキと過ごした夜を後悔していないあたしは、ヒロキと同じくらいに最低でずるい。

長い時間たっぷりと熱い湯船に浸かってから、あたしはヒロキと婚約者の顔をそれぞれに思い浮かべてお風呂からあがった。



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