解けない愛鎖
リビングのローテーブルには、ヒロキが持ってきたワインの瓶と、ほとんど口をつけずに中身が残ったワイングラスがふたつ。昨夜のままに忘れ置かれている。
ヒロキがここを去ってからまだ何時間も過ぎていない。ヒロキがここにいた名残だって目の前にある。
それなのに、昨夜のことがもう随分と前に起きたことのような気がする。
自嘲気味に笑って、グラスを片付けようと屈んだとき、テーブルの下に赤いリボンを見つけた。
ヒロキが持ってきたワインに結ばれていたものだ。
捨て置かれた赤いリボンは、ヒロキとは結ばれなかった赤い糸のようで。あたしを物哀しく淋しい気持ちにさせる。
赤いリボンを拾いあげたとき、どこかでスマホが震える音がした。
そういえば、鞄に入れてずっと放置したままだ。
もしかしたら────。
淡い期待とともに取り出したスマホの画面に残っていたのは、婚約者の彼からの着信履歴。それ以外に、彼から二件ほどメッセージが届いていた。
いずれも、帰ってから連絡すると言ったきり音信不通になったあたしを心配するものだ。
彼以外の人からは、着信もメッセージも届いていない。