解けない愛鎖
あたしは赤いリボンの端を握りしめると、深呼吸をしてから婚約者の彼に電話をかけた。
「もしもし、リナ?おはよう」
ワンコール目が鳴り終わる直前に、電話口から彼の穏やかな優しい声が聞こえてくる。
「おはよう。昨日はごめんなさい……帰ってすぐに、その、寝てしまって……」
「はは、飲み会が楽しくて疲れちゃった?」
「そう、かも……」
目を閉じれば瞼の裏に蘇る、ヒロキとの情事。
婚約者の彼は、後ろめたい気持ちで言い訳するあたしを少しも疑っていない。
きっとこれからも。何も知らずに笑いかけてくれる彼の隣で、未だ残る少しの恋慕と罪悪感を抱えて生きるのだ。
あたしが望んだ、温かくて、優しくて、幸せで。
だけど、どこか退屈で。少しだけ物足りない。そんな日々を。