解けない愛鎖
「タカヒロさん。あたしのこと、好き?」
唐突な質問に、あたしと婚約者の彼の会話に微妙な間ができる。
「もちろん、好きだよ。どうしたの?リナがそんなこと訊いてくるなんて珍しいね」
「そうかな……」
「何かあった?」
優しく訊ねてくる彼は、あたしの嘘の言い訳に簡単に騙されるくせに、意外と鋭い。
「何もないけど。なんとなく、訊いてみたくなっただけ」
「そんなこと言われたら、リナに会いに行きたくなっちゃうよ。今から仕事で、残念」
ため息混じりにつぶやく彼の言葉に、ふっと笑みが零れる。
「仕事、頑張って」
「ありがとう、また電話する」
穏やかな彼の声を聞いているうちに、あたしの心に凪のような静かな日常が戻ってくる。
「うん。またね、タカヒロさん」
通話を切ったあたしの手から、もう結ばれることはない赤のリボンがひらひらと揺れ落ちていった。
【Fin】