路地裏の唄
「じゃ!私達はこっちだから!」



チャッと手を振って他の分子のところへ行こうとする県にてっきり応援か様子見に来てくれたんだと思っていた律は露骨に寂しそうな顔をする。


そんな律の様子に県は一瞬目を見開くがすぐに「もぉうかんわいいなぁりっちゃんはぁっ!!」とかなんとか言いながら抱き着いて猛烈にほお擦りをした。




「ほほえましいのぉー」

「はぁ…」




カラカラと笑う原十郎の隣で玖科がため息混じりの適当な返事をする。

やや下方から注がれる視線に気付き原十郎は片眉を上げて玖科を見下ろしたが、すぐに玖科は視線を逸らすと今だ律とじゃれている県に声をかけ「じゃ」と短く言って他の建物の屋根や屋上へと飛び移って行った。





何か言いたげだったがなぁ…と原十郎は内心首をひねるが、律は全く気付かないようすで県達の消えた方を眺めていた。

が、すぐに自分の進行方向へと向き直り、すっと目を細めた。

普段は犬のようなそぶりの目立つ律だが、武力を行使する時はスイッチが入ったように雰囲気ががらりと変わる。




そこにかつてのマスターとの類似点を見出だしながらも、そんな風に過去のメモリが整理されていることに原十郎は再度、内心でだけ現樂に感謝した。
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