路地裏の唄
興味深そうに律を見ながらすぐ目の前まで歩み寄る。

やはり、近くで見ると重量がなさそうで長身だが威圧感がない。

ただ、存在感があった。



「おい小僧。
見ねぇ顔だが新入りか?」


粗野な雰囲気はない。
原十郎のような老獪な穏やかさとも、現樂のようなぞんざいで余分のない話し調子とも違う。
人懐こさの漂う軽快な調子を伴う男だった。


律が頷くと「そぉかそぉか!!」などと屈託なく笑いながら豪快に律の頭を撫でると近くに立っていた県と玖科に気付きそのまま照準を変えた。


「よぉ!坊主に嬢ちゃん!
達者でやってるか?」

「こんちゃ!かもさん!」


顔見知りらしく、県の方は元気な返しで応じている。
一方、坊主と呼ばれた玖科の方はいつもの眠そうな表情の中にも何やら物言いたげな顔で、何か声を発する気配に周囲が少し静まる。

「あの、僕まだはげてないんで…」


坊主は…とフェードアウトするように声が消えていく。
世間とオカルトの知識の格差は相当なのかもしれない。

「どうもーお初っすね」

玖科に「てめー!」などと言ってる男の方を眺める律の所に先程の女の子がにこにこと話しかけてきた。

初見の印象の通り、気さくというか、社交的なタイプのようだ。


「あそこの人は私のマスターで紅亥 拳伴(カモイ ケンスケ)。
私はそのケータイ、心水(ウラミ)って言います」


どこか体育会系な話し口調で名乗り頭を下げた。
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