路地裏の唄


「取り返しに来たな」


短いため息のような独り言の後、彼はその華奢な身体を至極気怠そうに、しかし速やかに立ち上がりその場に居合わせた二組に指令を下した。


「律と原十郎は門前で分子とツールを片付けろ、県と玖科は深梁と苣の保護。俺の所に二人を連れて来次第律達の援護にまわれ」

「了解っ!」

「わかりましたっ」

「了解しました」

「行ってくるかのぉ」



各々の返事を返すと、律達は迫るノイズに向かい駆けて行く。
玄関を出ると、騒音の権化に追われ走る赤眼白髪の男とその肩にしがみつく鮮やかな紫がこちらに猛スピードで向かって来るのが見えた。


「苣!こっちこっち!!」


律が軽く跳ねながら手を振る横を走り抜けるその刹那、その赤い瞳が律達と交わる。
それは僅か、何かを尋ねるような気配を残していたが、すぐ目前に迫ったアンインストール分子を前に彼を振り返る隙はなかった。

律は指先に小さな紅蓮を灯すとそれを口に含み肺に入るだけの酸素を取り込み、勢いよく大きな火炎として分子達に吹き付ける。


炎が大気を喰らいながら分子達に襲いかかって行くと、その向こうでネズミの悲鳴に似た鳴き声と分子の削除完了を知らせる音が連続して発生した。
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