路地裏の唄
律の炎を逃れた分子達が苣達のあとを追って玄関に迫って来る、が、それは原十郎の横なぎの一閃に打ち払われる。


振り抜いたばかりの敷地内の廃材置き場から持って来た鉄パイプを軽く肩に担ぐと、原十郎はなおも起き上がって襲いかかって来るその鼻先に手をかざす。

すると、原十郎とその分子の間にブゥンッと青白いウィンドウが展開された。

そこには『delete』の文字が浮かんでいる。



アンインストール分子消去専用プログラム『vaccine soft』の始動に自由のなくなった分子の身体が光の粒子になって大気に散り始めると、原十郎はそちらに一度目線をやった後、次の分子達へと足を向けながら飄々と微笑む。


「黒こげじゃないだけ、良しとするんだのぉ」


その言葉が終わるかという頃には、光の粒子は全て散り、同様にウィンドウも消えていた。

負傷して動きの鈍くなった次の分子に近づいたその視界の先で県達が加勢に来たのが見えた。
苣達は無事現樂達の所に辿り着いたようだ。



「原さん!ツールは?」

「まだ出てきてはおらんようだのぉ。奥で控えているのか正面から来る気がないのか…」


県の質問に追い付いてきた玖科と共に分子を消去しながら原十郎は律の起こす炎の向こうを見やるが、陽炎の向こうには目立って注目出来る対象はない。



「やーっほんまごめんなさい!」


賑やかな声と共に深梁が武器型のケータイを片手で回しながら前線に躍り出る。


「深梁ちゃん!来て大丈夫なの?」

「全ー然!多勢に無勢だったってぇだけですわ!」
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