路地裏の唄
「慢性的な貧血に悩んでる女が何を息巻いている」

「んなっ!?」


深梁の横あいから襲いかかって来た分子をナイフで突き飛ばしながら低く声をあげる苣に深梁が一瞬絶句する。
心なしかその頬は少し赤い。


「えっ!?深梁ちゃん貧血持ちさんだったの!?」

「…初耳だね」


声をあげた県と玖科の視線に気まずげに肩を跳ねさせながらそちらに曖昧な笑顔を顔に貼り付けながら向ける。
どうやらあまり知られている事ではなかったらしい。

確かに普段の深梁を見ていたらまず想像はつくまい。



「うっるさいなぁ!ちょっと立ち眩みしただけやっちゅうんにあんたが勝手に担いでここまで来たんやろ!?」

「ふん、ただでさえ俺は極端に多数の敵と単体で正面から戦闘することには特化していない。
その上ふらついていた貴様を連れていたのでは分が悪いと判断したまでだ」

「要するに一人で深梁さん守れないから逃げて来たんだ…」

「おいそこのもやし。聞こえてるぞ」

「…事実でしょ。このでか兎…」

「もーっ喧嘩してる場合じゃないでしょーっ!!」



周りを無視して静かに火花を散らし始めた苣と玖科の間を県が飛びかかった分子をプログラムによって作り出したグローブをまとった拳で殴り飛ばしながら走り抜けた。


「苣、追ってきたツールと面識はあるのか?」


県に叱られても今だそこから動かなかった苣に原十郎が尋ねる。
苣はその赤眼をそちらには向けず分子達の向こうを睨むように目線をやった。


「ある。どちらかと言えば俺と同じ遊撃を得意とした奴だ」



先程より大分数の減った分子達のその向こう、舞い上がる埃で霞んだそこに人影が見えていた。
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