路地裏の唄
原十郎が自然に放れ、そのまま並んで歩き出すと、ふと沈黙がおりる。
「ねぇ、原十郎」
「…わかっとる」
様子を伺うような律の声音を察して優しくも苦笑する。
誕生日になると毎年聞かれている質問に、そろそろ答えてやるべきか、と、内心呟きながら。
「教えてくれる?
父さんと、母さんの事…」
上目がちにこちらを伺う律に肯定の意を持って微笑むと、いとも簡単に破顔した。
その様子に、育て親としての愛しさを感じながら、原十郎は脳にあたる中枢に堅くロックを掛けていたメモリーを解除する。
「っ…!」
エラーを起こしそうな精神中枢へのダメージが流れ出す。
痛みに堪えようとするように堅く瞼を閉じ口を引き結ぶ。
いつも雲のごとく飄々と振る舞う彼のいつもとは違う様子に律は不安にかられ原十郎に近付き、袖を引いた。
「原十郎…?
調子、悪いの?」
律の声でようやくフリーズしかけていた中枢の働きが持ち直されてくる。
微笑んで、頭を撫でようと手を伸ばした。