路地裏の唄
「またお店付き合ってもらわんとあかんねやからはよ戻って来て」

「何故俺が貴様の都合に合わせて動かねばならん」

「…まんざらでもないくせに…」


賑やかしいやりとりの間に小さく聞こえた声に苣はおどけて猫のように笑う深梁から目を離し、こちらには目を向けず眠そうな灰色の瞳を地に向ける玖科をねめつけた。

物静かで倦怠感を常に漂わせる彼だが、どうにも苣にはつっかかる。



「おい貴様何を」

「兄様、そろそろ」


玖科の呟きに異議を唱えようとするのを、律との一時の別れのやりとりが済んだらしいコンツが無遠慮に遮った。



「またこちらに来た際にはお二方の状態をチェックするので、最初にここに来て下さい」


質量の軽い、紫の娘とは打って変わり感情の起伏の判別がつきにくい声に振り返れば、薄紅梅の眼が屈託なく自分を見ていて、あぁと返事をしながら苣は思わず視線を緋奈咫から外す。

稚気のあるこの愛想のない少女型のケータイが自分を助けたのだと言うことがなんだか後ろめたいのか気恥ずかしいのか、彼女の前では苣はいまいち言葉をうまく紡げない。



「ほーらまぁたおじょーさんにデレデレしてんとはよ行ってきぃや!」

「あの、ひとつ」
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