路地裏の唄


苛々とした声に変わった深梁に苣が応戦しようとしたところを、またしてもコンツが凛と遮る。

言葉の通り人差し指だけをピンと伸ばし、緋奈咫を見ている。
緋奈咫が光彩のよく入る瞳をくるりとコンツに向け、首を傾げて見せるとコンツは口を開く。



「最初に会うのなら律が良いのです。先程の言葉は妥協可能ですか?」



恥ずかしげもなく言ってのける彼女に少し、各々の沈黙がおりる。

そこまで傍に居たいものか、と苣は感心に近い感想を心中に持っていた。


どうしたものかと思ったのか、緋奈咫は特に大きく動揺した様子なく、頭を支えるには少し大変なんじゃと思わせるような細い首をくりっと動かして自分のやや斜め後ろにいる自分の主人を見る。

無言の問いを投げられた当の本人は相変わらず片方だけ耳にかけた長い前髪の奥の目を手元の書類からあげることなくぞんざいに返す。


「どうせ律はここが生活拠点でもあるから問題ねーだろ。外にいる時に会ったらすぐ律がここに連れてこい」

「はーい」


現樂の言葉に律が実に素直な返事を返し、コンツは嬉しそうにぎこちなく破顔一笑した。
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