王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
 エレベーターを降りるまで無言だった町田が、ひょいとおれの腕を肩に乗せた。
「体重かけてくれていいですよ」
「いや平気だから、引きずれば」
「で。次は道路の段差につまづいて転びますか? 車道側に倒れたら、今度こそ笑い事じゃすみませんね」
 なぜ断定?
「今回は別に転んだわけじゃねえし。昨日の尻もちで打った尾てい骨のほうが、なんぼも痛いわ」
「やっぱり。今日の自転車だけじゃないんですね?」
「なに、それ。ー海(ひとみ)さん、なにか知ってるの? 兄ちゃん、どうしたの?」
 虎の顔が真っ白だ。
 大丈夫。おれはおまえみたいに優しくない。
 いじめられて黙っていられるほど強くもない。
 誰かにやられたんならやり返してる。
「なんでもねぇよ。最近ちょっと、おまえが言うみたいに注意力散漫てやつなのか、やたらひとにぶつかったりして、あちこち痛ぇだけ」
「まさか、ほかのとこも痛くしてるの!?」
「だから、なんでもないって」
「なんでもないことないでしょ! ぼくだけならいいけど! 一海さんにまで迷惑かけて……。しっかりして!」
「…………」「…っ」
 気押されて黙ったのはおれで。
 笑ったのを隠して口元を押さえたのは町田。
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