王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「なんだよっ。言いたいことあるなら言え」
「いいんですか?」
 いやよくない。
 どうせ年下の子に説教される不甲斐ない男に追い打ちだろが。
「とんちゃん――」町田が話しかけたのは虎に。
「お兄さんを心配すると、とんちゃんは…女の子になっちゃうんだね。とてもかわいいと思う。でもね、気をつけて。世の中のひとはまだそんなに…優しくない」
「…………」「…………」
 じわじわと染みる町田の忠告。
 まだ男でも女でもない虎を理解し、守れるのはおれだけだという重たい現実。
「ごめん、一海(ひとみ)さん。ぼく、動揺して――」虎は瞬時に“弟”にもどっていた。
「ぼく、気をつけないと。ぼく…兄ちゃんに甘えてちゃ、だめだよね」
「うん」うなづく町田の強さを虎は本当にはまだ知らない。
「今は仕方なかったけど。ひととちがうことを隠して生きると決めたんだから、少しさびしいくらい冷静でないと、だよ」
「…………」「…………」
 これは町田の体験談だ。
 虎は町田がゲイであることを隠してきた、これまでの人生からの忠告だと思っているだろうけど。
 おれは知っている。
 この先もたぶん、一生ひとりで苦しむ町田を。
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