王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「…くそっ。くそくそくそっ」
 たかが女ひとりのわがままのために。

  夢じゃなぃ 夢ぇじゃなーい

 学校の敷地外まで轟く即席応援団の男声合唱で暑苦しさ倍増の土曜の昼下がり。
 今日は虎が“王女さんのお気に入り”と接触してくれる。
 町田には虎が彼女をゲットするまで、もう店には近づくなと言ってある。
 町田に王女さんを渡すまで、もうやつに恐ろしい思いはさせたくない。
 
  レッツゴー レッツゴー 

 と、ら、の、す、け!
「兄ちゃんも、がんばるわ」
 自分に自分で言い聞かせるぶんには、お手頃な言葉だよな。
 がんばるって、なにをどうすることなのか。
 18年も生きてきて、未だにわからないけどさ。


 授業中がもっとも平和だと、しみじみ思いながら歩く駅までの10メートルが1500メートル走ほどのラップタイムになってもう汗だく。
『駅までバスに乗りゃいいじゃん』
 おれの足をパシャパシャ激写しながら鼻で笑った吾川には、ステップを上って下りる、たぶんそんな単純な動作すらがつらいお年寄りや身体の不自由な皆さんのことを代表演説してやるべきだった。
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