王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
 マジかっ! 
 片足立ちで回れ右。
 知らず道の先を探したおれの視界の下の端、おれがさっきまで座っていたベンチの前に彼女はしゃがんでいた。
 おい! 
 そっちが大丈夫かよ。具合悪いのか? 
「にゃあ……」
 …………。
「にゃあ……?」
 …………。
 聞き間違いじゃない。
 にゃあにゃあ言っているのは彼女だ。
 ターゲットがまさかの猫()き女!?
 オカルト連鎖、おそるべし!
 もう、うんざりだ。
 おれは、無味無臭の人間社会に満足してるんだ。
 ぷんぷん異臭を放つ町田は珍獣枠。
 おれの世界にいてほしい人間じゃない。
 それでもこのオバサンに押しつけるのは、ひととして間違っている気がしてきたのは、傲岸不遜。
 わかっちゃいるけど憐れみだ。
 不感症男の次は、猫語をしゃべる女とおつきあいとは。
 言わねえけど、がんばれ町田。
 ほかに言葉もないわ。
「にゃあ? …にゃあ?」
 うわ。やめろってオバサン。
 この猫憑き女に町田を渡す?
 いいのか、それで。
 どうしよう。
 見ちまった。
 見なくていいものを、見ちまった。
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