王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
 その、お持ち帰りの客が振り向いて2歩、おれの足を踏んだ。
「…っ、ぐぁぁ」
 小指を折ったほうでなくて幸い。
 折ったほうだったらおれはこの場で卒倒、不戦敗だった。
「だ…いじょぶ、ですか?」
「……っす」
 デジャヴのようなやりとりのなか、額の汗をぬぐって無事を表明。
 足を踏んだババアのほうは謝りもせず平然と店を出て行ったのに。
「――ケガをされているほう…でした?」
「…ゃ、大丈夫。逆でした」
 さっきのことを思い出せば、さぞかし不愉快だろうに、ちゃんと店員の仕事を全うしてくれる良いひとだ。平泉さん。
 名札を読まなくてももう名前を知ってるなんて、すみません。
「ぇと…あの、ご注文は」
 それでも態度がぎくしゃくするのは、おれのせいだね。
 なちゅらるぼーん無神経な、いじめっこ。
 長いつきあいじゃない。
 こらえてください。
「チーズバーガーセット。氷なしのコーラで」
「はい。チーズバーガーセット、氷なしコーラで。490円になります」
 おれが財布から出した500円硬貨をレジに入れて、平泉さんはなにかを決意したように小さくうなづいた。
「ぁの…、あの…、お席でお待ちください。お持ちします」
「――ども」
 王女さんが、おれより平泉さんのほうが好きなのは納得した。
 ――見えてんのかな、このひとには――
 彼女の肩のあたりをながめてみても、おれにはやっぱり気配すらわからんけども。

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