王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「だったら描写しろ。言葉で。できんだろ、それなら」
「女性の容貌を私感で語るなんて。できませんよ」
「――ねぇ、ふたりでなんの話をしてるの?」
「…………!」「…………!」
 無邪気な虎の問いかけに、ふたりして口をつぐんでしまうけど。
 そうだな。
 忘れていたわけじゃない。
 言葉にはしなかったけど、いつか虎にも話す機会をやると約束した。
 今はほんの少し町田に生きる気力を与えているかもしれないが、ずっと町田を苦しめてきた力。
 たった15歳で親とも離れ。
 ひとりでも金さえあれば不自由なく暮らせる程度には栄えた町の。
 たぶん比較的生活や情緒の安定したガキが集まる高校を選び。
 ただ息を殺して生きることを選んだ町田(ノラネコ)
 おれの前に転がり出たことで、そこが餌場だと覚えたというのなら、飯だってトイレだって寝床だって用意してやるのがnoblesse oblige。
 おれといることに慣れてきたのなら、そろそろ先住猫にも正式に挨拶をさせる時期なんだろうな。
「ごめん、兄ちゃん。余計な口出し…しちゃった?」
 虎がおれから視線を外さないのは、きっと町田がうつむいたからだろう。
 あきらかに、町田にそんな顔をさせるなとおれを責めている。
 おれに迷う時間もよこさないあたり、ひつじちゃんなんて、とんでもない。
 これが無意識なんだから、町田より異能の執事なのかもしれん。
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