王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「虎ぁ。町田がおれの命令を無視するんだぜぇ」
「なに言ってるの。そんな立場じゃないでしょ。――ごめんね、一海(ひとみ)さん。ぼく、手伝うよ」
「でも、とんちゃん……」
 そうだな。

 これから、そこにいるひとを描きまーす。
 え? 見えないの?
 いるでしょ、そこに。
 ――なんて。

 さすがに、そこからってのはいやだろう?
 だからさ。
 話せばいいよ、なにもかも。
 虎ならうたがうことも否定することもなく、おまえのすべてを受け止める。
 おれはそう信じているから。

「町田。今晩泊まっていけよ」
「――――――は…ぃ」
 町田はいつものように、きちんとおれの気持ちを受け取った。
「え? うそ? わーい!」
 虎がぴょこぴょこと(かかと)を浮かせ、両手を胸の前で叩いて大喜び。
 最初の時おふくろが当たり前のようにおれたちふたりの“コドモ部屋”に客用布団を敷いたから。
 町田は『女の子と同じ部屋に男を泊まらせちゃだめです』と、おれを叱って。
 それ以来、虎がどれほどねだっても、夕食の皿を虎と洗うと礼儀正しく礼を言って帰ってしまう。
 夜の街にひとりで出ていくこと。
 電車という逃げられない閉鎖空間に閉じこめられること。
 それが町田にとってどれほど恐ろしいことか。
 知っていてなにもしてやれないおれに文句ひとつ言うこともなく。
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