王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。
「おまえ、紳士だもんな」
「な…。あたりまえですっ!」
 おれが、からかっているのに気づいているくせに、町田は首筋まで真っ赤になっておふくろのメモ帳をにぎりつぶした。
 あーあ。
「おかぁさーん」虎まで赤くなっている理由は真っ当なんだろうな、おい。
「今日、一海(ひとみ)さん泊まっていくって。布団出すねぇ」
 キッチンに向かって言いながら小走りに廊下に出る虎に
「ちょっと! お父さん、部屋でコソコソいやらしい動画を見てるかもしれないから、ノックしてやんなさいよ」
 応えたおふくろのせいであばかれた加藤家当主の情けない住環境。
 町田はうつむいて笑ったのを隠したけど。
 おまえ、そんなもんじゃねえのよ、おれなんて。
「ちぇっ。隠れられるとか、マジうらやましいわ」
「………え?」
 やっぱりな。
 おまえ、おれの感情は見るくせに、おれの事情はこれっぽちも考えないな。
「おれなんて、おまえ、風呂どころか便所にもついてくる女がい…」
 そこで止まったのは町田の掌が失礼なことにおれの口をふさいだから。
 それでもムグムグ愚痴をぶちまけようとするおれの口をさらに剛力でふさいで、町田がぶんぶんと首を横に振る。
「よしましょう」
 なんでよ!
 言いたいことくらい、言わせろや。
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