パラダイス、虹を見て。
 ヒョウさんが黙り込む。
 私も黙った。
 びゅう…という強い風が二人の前を通り抜ける。
「俺達は兄妹だよ」
「だって、ヒョウさんのお父様のお墓がここにあるって」
「母親が同じだから兄妹だと認識するべきじゃないのかな?」
 何を言っているのか、わからなかった。
 じわじわと混乱してくる。
「ヒョウさんのお父さんはこの、スチュアート・ハワード氏って方ですよね?」
「うん」
「で、お母様が、ハワード夫人ってことですよね?」
「うん」
 冷静にヒョウさんが頷くので。
 私は余計に混乱した。
「私のお母さんは誰なんですか」
「目の前に眠っているハワード夫人」
「じゃあ、お父さんは?」
「・・・ハワード伯爵」
 どういうこと?
 ずっと、ヒョウさんとは母親違いの兄妹だとばかり思っていた。
「やっぱり、勘違いしてた?」
 ふぅ…とヒョウさんがため息をつく。
「だって、ヒョウさんあの人に似ているじゃないですか」
 初めて会った時、すぐにわかった。
 ヒョウさんは父親に似ていると。
 輪郭や目元が似ている。
「似てるって思ったから、じゃあ…ヒョウさんは誰なんですか」
 言っていることが滅茶苦茶だが。
 混乱しているせいで。
 目の前にいる人が一体、何者なのかわからなくなった。
「うちの父親は、スチュアート・ハワード。ハワード伯爵とは従弟だった」
「いとこ!?」
「うん。だから、俺があの人に似ているのも納得でしょ?」
 いつも。
 私は考えるのが嫌いだと自負しているけど。
 この時ばかりは、前にヒサメさんが言った言葉浮かんだ。

「貴女は本当は賢いのに…」

 頭は冴えていた。
 ヒョウさんの言葉で、わかってしまった。
 口元をおさえた。
「あの人が・・・、あの男が、ヒョウさんのお母さんに酷いことを?」
 ヒョウさんは黙った。
 …もう、無理だと思った。
 吐き気を覚えながら。
 その場で咳き込んでしまった。
「俺の口から説明する必要はなかったみたいだね」
 ヒョウさんの顔を見ると。
 さみしそうに、空を見ていた。
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