パラダイス、虹を見て。
 実の父親は女癖が悪い。
 わかっていたことだ。
 ハワード家に住んでいたのは一年間だったけど、
 使用人たちが噂していたのは聴いていた。
 誰とも構わず、女性に手を出して。
 本妻である母は何も言わず、夫婦間は冷え切っていたという。

 母親は同じ。
 それが何を物語っているかなんて。
 そんなの・・・
「げほっ」
 咳き込んだ後、しゃがみ込んだ。
「僕の父さんは次男で爵位も持っていなかったそうだけど。努力家で勉強家で、国王の側近にまで昇りつめたスーパーマンだった」
 ハンカチで口元を拭う。
 しゃがみ込んだ状態でヒョウさんを見上げる。
「母さんはね、父さんと同じで勤勉家だった。医療の研究をしていたんだって」
「2人の仲をアイツが破壊したん・・・ですね」
 ヒョウさんは目を合わせなかった。こっちを見ようともしなかった。
「政略結婚だったらしいけど、2人とも仲が良かったそうだよ。母は僕を生んでからも仕事に勤しんでたんだって」
 両親の話を聴いているうちに、
 身体がガタガタの震えてきた。
「ハワード伯爵は、幸せそうに見える人間が嫌いだったみたいだ」
 ヒョウさんがこっちを見た。
 怖いと思った。
 それ以上、聴いてはいけない。
「父を毛嫌いして、あの悪魔は母に手を出した」
「…生まれたのが私なんですね」
 もう、これ以上聴けなかった。
 涙が出てくる。

 ヒョウさんは私の肩に手を置いた。
「私は、生まれてきてよかったの?」
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