パラダイス、虹を見て。
 消えてしまいたいと思った。
 人生をぜーんぶリセットしたいと思った。
 私のせいで、何人の人間が死んだのだろう。

 ヒョウさんは背中をさすってくれて。
「勿論。君が生まれてきてくれて、こうして出会えてよかった」
 と言ってくれた。

 その言葉を信じていいのかわからなかった。
「私達のお母さんはどうして亡くなったんですか?」
「…病気で。カスミが生まれてすぐに亡くなった」
「…アハハ」
 ボタボタ涙は止まらなくなる。
 咳き込んで、顔がぐちゃぐちゃになっているのにも構わず、ヒョウさんを見る。
「私が生まれたから、お母さんは死んだってことでしょ?」
「カスミ…そんなこと言うな」
「もう、嘘はつかなくていいんです。私を生んだからお母さんは…」
 ぐっと身体を引っ張られたかと思うと。
 力強くヒョウさんに抱きしめられる。
「会いたかったんだ。ずっと、カスミに会いたかったんだ」
「会って、恨み言でも言いたかったんですか?」
 もう無理だ・・・。
 何を言われても責められているようにしか聞こえない。
 傷ついた顔で見られても、何も言葉に出てこない。
 血のつながった兄妹だっていうのに。
 やっぱり、ヒョウさんとの距離は遠く感じる。
 キリッとした眉毛、はっきりとした二重の目。
 ピンク色の唇、あの悪魔と似た輪郭・・・

「もう嫌だ・・・」
 ヒョウさんにしがみついて。
 泣き叫んだ。
 知りたくなかった。
 あの時、元夫に殺されて死んでればよかったんだ。
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