パラダイス、虹を見て。
12.彼らの正体
「流石に泣きすぎてブスになってんぞ」
 車に戻ってイナズマさんに言われた。
 瞼は腫れあがって、目を開けるのも辛い。
 事情を知っているのか、それ以上イナズマさんは何も言わなかった。

 多分、ドン引きしているだろうな。
 ここまで泣き果てたのは初めてかもしれない。
 疲れて考える気力もなくなるぐらい、ぐったりとしていると。
 ずっと黙っていたイナズマさんが「おいっ」と低い声を出した。

 ぱっと見ると運転席にいたはずのイナズマさんが目の前に座っている。
「え?」と辺りを見渡すといつのまにか車ではなく、馬車に乗っていた。
 対面する形でイナズマさんが前に座っていたのに全く気付かなかった。
「どこ、ここ?」
 思わず窓の外を眺めるが、見たことのない場所にいる。
 眉間に皺を寄せて鋭い目つきで睨んでくるイナズマさんは「あーあ」と言った。
「ヒョウさんは?」
 さっきまで墓地にいたはずなのに。
 何で、こんなに記憶がぽっかりと抜けているのだろう。
 自分の魂が抜けてどこかへ旅だってしまったかのような恐怖感に襲われる。
 だが、そんな恐怖よりも目の前でじっと睨みつけているイナズマさんのほうが怖かった。
「兄貴は急ぎの仕事で途中で別れた…さっきも説明したが」
「…そうですっけ」
 あまりにも怖い顔で睨まれるので。
 扉を開けて逃げ出したいと思った。
「なあ」
 足を組んだヒョウさんはじっとこっちを見つめる。
 整った顔してるくせに、どうしてそんなに鬼みたいに冷たいんだろう。
 今日くらい優しくしてくれてもいいじゃないか。
「ちょっと、おまえに見せたいものがあるんだけど、いいか?」
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