パラダイス、虹を見て。
馬車を降りて、目の前にある建物に入る。
警備員らしき人が立っていて、イナズマさんはその人に何か言うと。
警備員のオジサンは「どうぞ」と言ってドアを開けてくれた。
誰もいない廊下を進んでいくと、
広いホールが目の前に広がる。壁沿いにはスタンド花が飾られており、ポスターが貼られてある。
此処が、どこかの劇場であるというのをようやく理解した。
重厚な茶色い扉をイナズマさんが開けると、「早く入れ」と私を急かした。
劇場の中へ入ると、聞き覚えのある声がする。
座席数はどれくらいなのだろう?
何百席もある椅子はがらんとしているけど、前の方には誰かが座っていて。
観客席に座って舞台に向かって大声を出しているのは・・・ユキさん?
舞台に目をやると、見たことのない男の人数名と女の人が一名立ってじっとユキさんの言葉を聞いている。
「もう少し、テンポはゆっくりやって」
「ユキ、ここ聞き取りにくくないか?」
ユキさんに見とれていて気づかなかったが、ユキさんの隣にはヒョウさんが座っていた。
口をあんぐりと開けていると、
「ねえ、ユキ。音は大丈夫なの?」
舞台の前に設置されているオーケストラ席にいたのは、ヒサメさんだ。
秘密の館にいるはずの3人がいきなり目の前に現れたので、
本当に本人かと自分の目を疑ってしまった。
彼らはこっちに気づくことはなく仕事に没頭している。
「ユキさんは、演出家なんだよ」
「へ?」
すっかりと存在を忘れていたイナズマさんが喋ったので思わず「何が?」とタメ口が出てしまう。
「ユキさんは舞台の演出家。んで、兄貴は脚本。おまえ知らないだろ? 兄貴が4か国語喋れること」
「4か国語!? どういうことですか?」
「兄貴は外国語がペラペラだから、他国から輸入した本を翻訳したり他国からやってきた人間の通訳をする仕事をしているんだ」
「……」
普段は怖い顔しているくせにヒョウさんのことを喋るときだけ、とても嬉しそうに話すイナズマさん。
「ヒサメさんは、ピアニストでもあり作曲家」
「えっ」
イナズマさんの視線の先を見ると、ピアノの前に座って流れるようにヒサメさんがピアノを弾き始めた。あまりにも意外な姿に見とれてしまう。
「あんま邪魔すると悪いからな、引き揚げんぞ」
「えっ、来たばかりなのに」
チラッと舞台を見たが、イナズマさんは扉を開けて出て行ってしまったので。
慌てて私も外に出た。
薄暗い空間から出ると日光を眩しく感じてしまう。
ふと、自分が喪服姿だったのを思い出して一体、自分は何しているのだろうと我に返る。
イナズマさんと馬車に戻って座り込む。
だが、馬車は動き出さずに止まったままだった。
いつになく真剣な表情をしているイナズマさんに対して、
どうすればいいのかわからず。
かといえ、目をそらすこともできない。
「あの、戻らないんですか?」
恐る恐る声に出すと、イナズマさんは「なあ」と低い声を出した。
警備員らしき人が立っていて、イナズマさんはその人に何か言うと。
警備員のオジサンは「どうぞ」と言ってドアを開けてくれた。
誰もいない廊下を進んでいくと、
広いホールが目の前に広がる。壁沿いにはスタンド花が飾られており、ポスターが貼られてある。
此処が、どこかの劇場であるというのをようやく理解した。
重厚な茶色い扉をイナズマさんが開けると、「早く入れ」と私を急かした。
劇場の中へ入ると、聞き覚えのある声がする。
座席数はどれくらいなのだろう?
何百席もある椅子はがらんとしているけど、前の方には誰かが座っていて。
観客席に座って舞台に向かって大声を出しているのは・・・ユキさん?
舞台に目をやると、見たことのない男の人数名と女の人が一名立ってじっとユキさんの言葉を聞いている。
「もう少し、テンポはゆっくりやって」
「ユキ、ここ聞き取りにくくないか?」
ユキさんに見とれていて気づかなかったが、ユキさんの隣にはヒョウさんが座っていた。
口をあんぐりと開けていると、
「ねえ、ユキ。音は大丈夫なの?」
舞台の前に設置されているオーケストラ席にいたのは、ヒサメさんだ。
秘密の館にいるはずの3人がいきなり目の前に現れたので、
本当に本人かと自分の目を疑ってしまった。
彼らはこっちに気づくことはなく仕事に没頭している。
「ユキさんは、演出家なんだよ」
「へ?」
すっかりと存在を忘れていたイナズマさんが喋ったので思わず「何が?」とタメ口が出てしまう。
「ユキさんは舞台の演出家。んで、兄貴は脚本。おまえ知らないだろ? 兄貴が4か国語喋れること」
「4か国語!? どういうことですか?」
「兄貴は外国語がペラペラだから、他国から輸入した本を翻訳したり他国からやってきた人間の通訳をする仕事をしているんだ」
「……」
普段は怖い顔しているくせにヒョウさんのことを喋るときだけ、とても嬉しそうに話すイナズマさん。
「ヒサメさんは、ピアニストでもあり作曲家」
「えっ」
イナズマさんの視線の先を見ると、ピアノの前に座って流れるようにヒサメさんがピアノを弾き始めた。あまりにも意外な姿に見とれてしまう。
「あんま邪魔すると悪いからな、引き揚げんぞ」
「えっ、来たばかりなのに」
チラッと舞台を見たが、イナズマさんは扉を開けて出て行ってしまったので。
慌てて私も外に出た。
薄暗い空間から出ると日光を眩しく感じてしまう。
ふと、自分が喪服姿だったのを思い出して一体、自分は何しているのだろうと我に返る。
イナズマさんと馬車に戻って座り込む。
だが、馬車は動き出さずに止まったままだった。
いつになく真剣な表情をしているイナズマさんに対して、
どうすればいいのかわからず。
かといえ、目をそらすこともできない。
「あの、戻らないんですか?」
恐る恐る声に出すと、イナズマさんは「なあ」と低い声を出した。