パラダイス、虹を見て。
 15時になると、畑仕事を終えて。
 庭園の木の下で休憩をする。
 焼き菓子を食べて、紅茶を飲みながらサクラとお喋りするのがルーティーンになっているのだけれど。
 この日に限ってサクラが真剣な顔をして「お2人にお話したいことがあります」と言われた。
 いつもだったら、アラレさんは先に部屋に引き上げてしまうのだけれど。
 ただならぬサクラの様子に「わかった」と言って残ってくれた。

 木陰で3人座り込み。
 サクラが頭を下げた。
「私、明日からイナズマさんに訓練をつけてもらうことになりました」
「…え?」
 訓練…という言葉の意味を理解出来なかった。
 口をぽっかりと開けている私に対して、アラレさんは「そっかそっか」と笑顔になる。
「訓練って、何で?」
 自分一人がサクラの会話についていけていない。
「私、カスミのこと守れませんでした。あの時、腰抜かしちゃって・・・・」
「あ…」
「旅に出てナンパ野郎に囲まれたときも、何も出来なくて。正直、悔しくて自分のこと本気で大嫌いになりそうだから」
「でも、サクラちゃんは女の子じゃない。何で、訓練する必要があるの?」
 思わず大声を出すと、
 サクラは驚いた顔をした。
 そして、目に涙を浮かべる。
「あ、ごめん。なんか…えーと」
 自分の言葉が失言だったことに気づいた。
 性別のことはサクラにとってはタブーだというのに…
 涙を流しながら、サクラは「違うんです」と首を横に振った。

「女の子と言ってくれたことが嬉しいんです」
 グズグズ泣いているサクラを見ながら、
 どうしよう…と思っていると。
「私、カスミのこと大好きです。世の中はしょうもないクソみたいな人間しかいないって思っていたけど、本当にカスミに出会えて良かった」
「クソって…」
 女の子が軽々しく言うセリフじゃないわ…と思ったけど。
 泣いているサクラを見て、言えなかった。
 チラッとアラレさんを見ると、黙ってニコニコしているだけだった。
「訓練は自分のためです。もう決めました。ちゃんと必要最低限の剣術・武術を学んで、将来的には必ずクリスと結婚します」
「アハハハハ。すっごいね。やっぱりサクラは選ばれた人間だ」
 手を叩いて喜ぶアラレさんに、どういう意味だろうと思いながら。
 これ以上、サクラに何を言っても無駄だということはわかった。
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