パラダイス、虹を見て。
 …何で、あんなことを口走ってしまったのか。

 幻想的な庭園を眺めながら。
 私はヒサメさんとベンチに座っている。
 今頃になって、心臓がバックバクとうるさいくらい鳴り響いていく。
 静まれ、心臓! と胸に手をあてる。
「何、胸が痛むの?」
「いえいえいえ。何でもありません」
 頭のいいヒサメさんのことだ。
 こっちの言動一つですぐにバレてしまうのではないかと焦ってしまう。

「夜の庭園がこんなに綺麗だなんて知りませんでした」
 話題を変えようと、庭園を眺める。
 この照明を用意したのは、ヒサメさんなのだろうか?
「…今日だけだよ」
 冷たい一言だった。

 何か、怒っているのかな?
 もしかして、邪魔だったのかな?

 色んな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。
 本当に、私は何がしたいんだろうと思う。
 お互い、黙り込むと。
 だんだん悲しい感情がふつふつと湧いてくる。
 何で、私。こんなところにいるんだろう?

「似た者同士だったら、私が何を考えているのかわかりますか?」
 じっと前を向くヒサメさんに言うと。
 ヒサメさんはチラリとこっちを向いた。
 この人が、ヒョウさんたちとそんなに年の変わらない人間だっていうのが信じられない。
 魔法とはいえ、見た目は17歳で止まっているという。
 全体的に整った顔。
 目は優しそうだけれど、全てを見透かされそうな鋭い瞳。
 すらっとした身体に黒い服はよく似合っている。
「俺は魔法使いじゃないから、わかるわけないでしょ」
 ヒサメさんがこっちを見た。
 至近距離で見るヒサメさんはあまりにもカッコよくて。
 恥ずかしくて、でも目が離せなかった。

「まあ、状況を踏まえると。貴女が傷ついているっていうのだけはわかりますよ」
 その見た目で丁寧な言葉遣いというギャップが変な感覚だった。
 私はこうして、ヒサメさんと2人でずっと話すことを望んでいたんだとわかった。
 気づいたら、ボロボロと涙が出てきた。
「ヒサメさんは自分自身を恨んだことありますか?」
「そりゃ、あるよ」
 目をそらすと、ヒサメさんは両手を合わせ指を絡ませる。
お祈りをするようなポーズをした後、すぐに手を離した。
「俺のせいで、死んだ奴たっくさんいるからね」
「…?」
 てっきり、自分の奥さんのことを話すかと思ったのに。
 複数の人間と言われて、固まってしまう。
「だってさ、騎士団ってどれだけ人間殺してるかわかってる?」
「あ・・・そうでした」
 すっかりヒサメさんが騎士団だったということを忘れていた。
「仕事だとはいえ、相手の人生を奪う仕事。自分がいなきゃ、どれだけの人間の命を保つことが出来たか…。大切な人間だって死んじまったし。何で俺だけ生きてるんだろって何度も思った」
 自分から質問しておいて。
 奥さんの話題が出たら嫌だなとは思っていたけど。
 ヒサメさんは奥さんのことを話す気はないみたいだ。
「傷つくのは、人間としての感情があるから大丈夫だ」
 再び、ヒサメさんは私の顔を見た。
「カスミは困難を乗り越えられる力を持ってるから、大丈夫だよ」
 そう言うと。
 私の頭をポンポンと撫でた。
 少しだけ、ヒサメさんは笑ったような気がした。
「おかしいよね。貴女のこと抱きしめたいって思った」
「えっ!?」
 ヒサメさんの言葉に。
 また、コイツはお酒飲んで酔っ払っているのかと身構える。
 だけど、隣にいてもアルコールの匂いはしない。
「…今のは忘れて。また、ヒョウとモヤに怒られるわ」
< 109 / 130 >

この作品をシェア

pagetop