パラダイス、虹を見て。
 全身、黒一色のユキさんの服装を見ると。
 モヤさんを連想させる気がした。
 どっちかと言えば、ユキさんってキラキラした服を着ているイメージがあるからだ。
 地味な服装にユキさんらしくないなあと思っていると。
 ユキさんは黙ってベッド前の椅子に座った。
「カスミさん、何か悩んでる?」
 単刀直入に言われたので、「え」とだけ声を漏らす。
「いや、俺だと相談相手にはならないことぐらいわかってるよ。平気で嘘つくしさ」
 養父母のことを引きずっているのか。
 ユキさんは自虐的に言い放った。
「そんなことないです。ユキさんは秘密の館の中でいっちばん相談しやすいです!」
 慌てて言うと、ユキさんは彫の深い目でじっと、こっちを見た後。
 ゆっくりと微笑んだ。
「カスミさんはやっぱり優しいね」
「優しくないでっすて。本当ですから。ヒョウさんはいつもいないし、モヤさんは旅に出ちゃってるし、アラレさんはアレだし。ヒサメさんは口悪いから…」
 そこまで言って。
 あれ、これだと消去法じゃない? 失礼じゃない?
 と思えてきて、わーわーわーと頭の中がパニックになる。
「アラレがアレって・・・ウケる」
 アレ…と言葉を濁したことが面白いのか、ユキさんは大笑いする。

「あ、あの。ユキさんって、私の父…ハワード伯爵ってご存知でしたか?」
「俺は直接は知らないかなあ」
「…そうですよね」
 自分の胸の内を一から説明するとキリがない。
 悪の根源は、自分の父親。
 ただ、一人。

「チャーリーにカスミさんのことを調べてもらってるときに知った程度で…なんかゴメンね」
「いえ、知らないほうがいいくらいです。あんな悪魔」
 悪魔…という言葉に反応したのか、ユキさんは怖い顔をする。
「あ、ごめんなさい。変なことを言って」
「いや、ヒョウはもっと残酷なこと言っていたから。やっぱり兄妹だね」
 兄妹…と言われるたびに。
 不思議な感覚に襲われる。
 ここに来てから時間が経つのに。
 まだ、ヒョウさんを兄とは思えないでいる。

「俺が知っているのは、カスミちゃんの元旦那さんかな。舞踏会で何度か見かけてたから」
「ああ…」
 2人の元旦那の顔が浮かんだ瞬間、
 うわぁ…とテンションが下がる。
 そういえば、私。2回も離婚している女だった…
「ねえ、カスミさん…」
 急にユキさんは真剣な表情をする。
「これから言うことは、俺の考えだからさ…あの…別に聞き流してくれてもいいんだけど」
「どうしたんですか?」
 言葉を慎重に選びながら話すユキさんに、急にどうしたのだろうと不安になる。

「多分だけど。カスミさんはヒョウから本当の家族や夫だった人達が処罰されてショックを受けているのかもしれないと考えたんだけど…」
 ドンピシャで考えていることを言い当てられたので、「えっ」と声が漏れる。
 ユキさんは足を組みかえる。
「ご家族のことを淡々と説明してきたヒョウに関してだって、どう接していいのかわからないだろうし。どっちかと言えば、怖いだろ? ヒョウの存在。いきなり処刑されましたーだの、処罰されました…だの言われたらさ」
 全くその通りだったので。
 私は、黙ってユキさんの顔を見ていたけど。
 耐えられなくなって、視線を外した。

「…ユキさんは私とヒョウさんのお母さんのこと…」
「ごめん。知ってる」
 心臓が止まるかと、思った。
 手がガクガクと震えてくる。
 突きつけられた真実を第三者が知っている。
「私は、父がヒョウさんのお母さんに無理矢理乱暴して出来た子供だなんて、知らなかったんです」
 ずっと、ヒョウさんとは母親違いの兄妹だと思い込んでいて。
 きっと、私のお母さんは愛人だったのだろうと解釈していた。
 貧乏だから捨てられちゃったのかなあとか。
 結婚する際、私が邪魔だったから捨てられちゃったのかなあとか。
 …考え出したら、キリがない。

 でも。
 そっちの考えの方が事実だったら、まだ幸せだったのかもしれないのに。
「俺ね、姉が3人いるって前に言ったけど。凄く仲が悪いんだ」
 急に何を言っているのだろうと思った。
 ユキさんが耳たぶを触ったかと思うと。
 思い出すように話す。
「だから、ヒョウとカスミさんを見ていると凄く新鮮」
「へ?」
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