パラダイス、虹を見て。
 ユキさんの話が全くわからず。
 このままじゃ、アラレさんのときの会話に近い…と感じた。
「10年以上前に、ヒョウのお父さんが病気で亡くなった時。ヒョウは完全に廃人になってね。仕事が出来ない状態になってた」
 そんな昔からの付き合いがあるのかと驚く。
「ヒョウはね、頼れる親戚がいるわけでもなくて…まあ。後からわかったのは、カスミさんの言う悪魔の圧力だったと思うけどね。天涯孤独になってしまったわけ」
「…悪魔が?」
 アイツの話が出るたびに、ロクな内容でないことに嫌気がさしてくる。
「ヒョウはどんどん憔悴しきって。ヒョウに頼まれて俺とヒサメがお父さんの遺品整理をすることになって。そこで、お父さんの日記を見つけたんだ」
「日記…」
 ユキさんを見ると、ユキさんはうつむいている。
「そこに、カスミさんが生まれたことが書かれてあった。ヒョウは知らなかったんだってさ。生まれてきた妹はすぐに亡くなったという説明を受けていたらしい」
「えっ…」
「ヒョウのお母さんが病気になっちゃって、育てられなくなって施設に預けられたと書かれてた。だから、俺たちはその妹を探し出そうってことになった」
「……」
 育てられない…。
 ズキッと胸が痛む。
 生まれて良かったのだろうかという疑問はどんどん深くなっていく。
「弁護士のチャーリーを使って、カスミさんが農家の養女になったことを突き止めて。そうしたら、ヒョウは『もうこれで充分』と言って諦めたんだよ」
「諦めた?」
「こっそり、カスミさんの姿を見て。あまりにも楽しそうだったから、ヒョウは満足してカスミさんに会うことを諦めた」
「…ヒョウさんが」
 ゆっくりと鼻から呼吸して、
 ふぅと息を吐きだしたユキさんは。
 姿勢を正した。
「でも、ちゃんと引き取っておけば、その後の悲惨な出来事は回避出来たのにね」
 低い声で、ユキさんが言う。
「カスミさんが辛い経験をしてきたのは、あの時。ヒョウが引き取らなかったせいだ」
「…え?」
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