パラダイス、虹を見て。
 ユキさんが部屋を出て行ったら。
 ボロボロと涙が溢れ出てきた。

 私、自分自身のことちゃんと向き合ったことなかった。
 ただ、流されるままに周りに翻弄されてきたけど。
 ちゃんと向き合う時期が訪れてしまった。
「ヒサメさんに会いたい」
 無意識に口から零れ出た言葉に、「ん?」と首を傾げる。
 何で、ここでヒサメさんが出てくるんだろう。

 苦しいときは、いつだって駆け付けて助けてくれた。
 カッコよくて、口が悪くて。
 たまに、難しいことを言ってくるけど。
 心がヒサメさんを求めている。
 ドアが開いて、「こんばんはー」と特徴のある高い声で入ってくるわけもなく。
 夜は静かに更けていくだけだった。
< 116 / 130 >

この作品をシェア

pagetop