パラダイス、虹を見て。
 今回の出来事で学んだ。
 貴族が集まるようなところに私は行ってはいけない。
 あの仮面舞踏会で懲りたはずなんだけど。
 今回はイナズマさんに誘われて、仕方なく来ただけなのに。
 ハワード家と言われた瞬間、心臓が止まるかと思うくらいビックリした。

 化粧室を出た後、イナズマさんと再会して。
 帰るのかと思いきやレストランへ連れていかれた。
 これ以上、人の多いところには行きたくないんですけどぉーと心の中で叫んだけど。
 断ることは出来ない。
 早く帰りたいと何度も心の中で連呼していると。
 案内されたのは個室。
 …何で、イナズマさんと個室で食事なんだろ。

 イナズマさんが店員さんに「コースで」とだけ言う。
 暫くして、ソムリエらしき人がやって来て、グラスに赤ワインを注ぐ。
 いや、何でイナズマさんとワイン飲んでいるんだろう。

 地獄のような、食事の時間だった。
 多分、お洒落で高級なレストランっていうのはわかるけど。
 イナズマさんは一言もしゃべらずに。
 黙々と料理を口にした。
 見た目も性格も怖いくせに。
 イナズマさんの所作は美しくて、見ていて飽きないくらいしっかりとしていた。
 聴いたことはないけど、イナズマさんってちゃんとしたお家柄なのかなぁと思った。
 テーブルマナーといい、食べ物の所作といい。
 無駄がなくて美しい。

 ほとんど食事の味がわからないまま、ようやく最後のデザートと紅茶が出てくると。
 イナズマさんは「なあ」とやっと声を出した。

「答えを聴かせてもらおうか」
 白いお皿にちょこんと乗った、チーズケーキに苺のソースがかかっている。
 チーズケーキを口に入れ、ごくりと飲み込んだ後。
「当分は出ていきません。…少なくとも、サクラがいなくなるまでは」
 緊張して微妙に声が裏返った。
 フォークを置くと。
 じぃーとイナズマさんがこっちを見ている。
 食べにくい。

「そうか」
 イナズマさんはそう言うと。
 湯気のたつ紅茶を飲んだ。
 私は、それを聴いて、「え、それだけ?」と突っ込んでしまう。
 一週間、こっちは悩んで苦しんだというのに。
 そうかの一言で片付けられるって何なのか。

 今度は私はイナズマさんをじぃーと眺めた。
「もし、私が出ていきますって言ったらどうするつもりだったんですか?」
「おまえが望む生活を与えるだけだ」
 即答で言われてしまう。

 薄暗い部屋で。
 テーブル上にあるキャンドルがお洒落に灯りを演出している。
 はたから見れば、私とイナズマさんはカップルか夫婦にでも見えるのだろうかと考えてしまう。
「あの、私は…ヒョウさんにとって必要なんでしょうか?」
 ずっと無表情だったイナズマさんは。
 私の質問に眉毛を釣りあげた。
 …怖っ。

 何で、見た目はそこそこイケメンだというのに。
 こんなに怖いのだろう。
「俺にする質問か?」
 怖っ。
 心の中でギャーと絶叫するが、声に出したらもっと怒られそうなので黙っておく。
 というか、いい加減帰りたいよー。
< 120 / 130 >

この作品をシェア

pagetop