パラダイス、虹を見て。
 嫌なことから22年間、逃げ続けた結果。
 色んなものが蓄積されていたようで。
 混濁した世界が広がっている。
 昔に戻りたいと何度も願い、
 時にはこんな人生を終わらせてしまいたいと何度も思った。
 どうして好きな人でもない人間と2度も結婚したのか…
 抵抗することもなく、周りに流されるまま生きて、傷ついて。
 馬鹿だな、自分。

 穏やかに生きることだけを望んだとしても。
 与えられた傷は一生残るわけで。
 どうしていいか、わからない。

「生きろ」
 ヒサメさんの声が聞こえる。
 会いたいと願った人の声だ。

「カスミ、カスミ、カスミ…」
 さっきから耳元で自分の名を連呼される。
 目を覚ますと。
 見慣れた天井がある。
 ふと、誰かが自分の手を握っている。
 ゆっくりと、手の主を確かめると。
 ヒサメさんが青白い顔で私を見ているではないか。
「ヒサメ・・・さん?」
 こんなに嬉しい夢があるのだろうか。
 思わずニヤけてしまう自分がいる。
 だけど、ヒサメさんは私の顔を見るなり「わぁ!」と悲鳴をあげると。
「今、医者呼んでくる!」
 と慌てて部屋から去ってしまった。

 冷静沈着なヒサメさんが慌てている姿を初めて見た。
 妙にリアルな夢だなあと思って起き上がろうとしたけど、身体が思うように動かなかった。
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