パラダイス、虹を見て。
 モヤさんが私の顔を見て、ニヤニヤ笑うので。
 大声で「大丈夫ですからー」と叫んでしまった。

 まるで、私がヒサメさんを意識しているみたいじゃないか…。
 いや、意識しているのかもしれないけどさっ。
 ただ、急に姿を現さなくなったら。
 誰でも心配すると思う。

 夕食を終えて。
 シャワーを浴びて寝る支度を終えて。
 ユキさんと部屋で喋っていた時のことだ。
 モヤさんとの夕方の会話をすっかり忘れていたというのに。
 ドアがノックされて。
 部屋にヒサメさんが現れたときは青ざめるしかなかった。

「ユキさん。交代してちょうだいな」

 特徴あるヒサメさんの声に。
「わかった」と言ってユキさんは立ち上がって、「おやすみ」と言って出て行ってしまった。

 ユキさんと入れ替えに。
 身体をくねらせながら入ってきたヒサメさんの様子がおかしいことに、
 すぐにわかった。
「…お酒飲んでるんですか?」
 アルコールの匂いがかすかにする。
 ヒサメさんの目が泳いでいる。
 ヒサメさんは高級そうなスーツを着ているが、
 所々、しわになって汚れてしまっている。
 椅子にもたれかかると。
 ヒサメさんは「はああ」と言ってため息をついた。

 完全なる酔っ払いを見て。
 これほどまでに失望したことはなかった。
「そいで、俺に何の用よ」
「用って…」
 じっとヒサメさんが私を見る。
 その整った顔で。
 こっちを見てもらいたくなかった。

「あの…。ずっとお見掛けしなかったので、大丈夫かなと思っただけです」
 モヤさんに余計なことを言わなきゃよかった。
 手に汗をかいてしまう。
 目の前にいるヒサメさんに、どんどん嫌気がさしてくる。
「ふーん。俺のこと心配してくれてんだ」
 普段のヒサメさんとは違って態度が悪い。
 大きな声で言うので。
 身体をビクっと震わせてしまう。

 ヒサメさんを見ると。
 ヒサメさんは真顔になった。


「まさか、俺のこと好きだとか思ってないよね?」

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