パラダイス、虹を見て。
 よく眠れないまま、一夜を過ごし。
 畑に来て、水やりをしたり雑草を抜いているうちに。
 我に返った。
 夢だったと思いたいのに。
 頭にこびりつくのは、
 ヒサメさんの「奥さんがいる」という言葉だ。

 一体、自分は何を期待していたのだろうか。
 ヒサメさんが既婚者だなんて知らなかった。
「奥さん」という単語を聞きたくなかった。
 こんなにショック受けている自分が気持ち悪い。
「カスミ。顔、真っ青よ」
 年下で、侍女だというのに。
 サクラは私のことを「カスミ」と呼び捨てにする。

 目の前にサクラがいたので。
 無意識に畑仕事をしていたのだと自覚する。
「ごめん、サクラちゃん。アラレさん。部屋で休みます」
 2人に許可を取って。
 部屋に戻る。

 日差しが暖かい。
 苦しんだって悩んだって毎日がやってくる。

 軽くシャワーを浴びた後。
 ベッドに倒れ込む。
 寝不足のせいか頭がぼーとする。

 泣いてどうなる?
 悩んでどうなる?

 目を閉じる。
 一体、何が辛いのかわかんない。
 ヒサメさんは、どうしてあんな意地悪なこと言うのだろう?
 奥さんがいる?
 あ、そうですか。じゃあ。本当に二度と部屋に来るなと思った。

「なんなのさ…」
 やっぱり涙は出てくる。
 枯れないのね、涙って。
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