パラダイス、虹を見て。
いつから、こんなにネガティブ思考になったろう。
昔は明るくて、とにかくゲラゲラ笑っていた気がする。
物心ついたときには、両親がいなくて。
施設で育った。
私は道化師のように周りの人間を笑わせる存在だった。
哀しいという感情を考えるのが嫌で。
常に楽しいことを口にしているようにした。
9歳の時、農業を生業とする養父母に引き取られ。
凄く楽しい毎日を送った。
養父母は親と言うには、少し年老いていたけれども。
精一杯、私を本当の娘のように可愛がってくれた。
学校へ行って、畑仕事を手伝って。
お腹いっぱい食べることの出来る幸せ。
永遠に続くかと思ったのに。
「貴女は、ハワード家の血を引くご令嬢なのです」
小説のような出来事が現実に起こるだなんて思わなかった。
フィクションじゃなかったのだ。
私を捨てた親は伯爵家の人間だった。
養父母に多額の金銭を渡した、父と名乗る男は。
無理矢理、私と養父母を引き離し、
自分の子供として…次女として私を育てることにした。
結局、それは長女パトリシアの身代わりとして急遽用意したものでしかなかったけど。
「……」
目を覚ますと。
今度は夜中だった。
一体、何が夢で何が現実かわからないまま眠ってしまった。
起き上がると。
また、キィィンという音が頭に響いた。
ため息をついて、ドアを開けると。
不気味なくらい長い廊下に、ここはどこなんだと思ってしまう。
ウロウロとしながら、歩いていると階段を見つけ下へ降りる。
明かりが続くほうへとゆっくりと歩いていくと。
一つの部屋にたどり着いた。
ヒョウさんと、男の人が笑いながらお酒を飲んでいた。
「お、兄貴。お嬢さんが」
私の存在にすぐ気づいたのか、ヒョウさんの側にいた男性が大声で言った。
「あ、起きたのか。カスミ」
カスミ…と呼び捨てにされて。
そうだった、ヒョウさんは私のお兄さんだったと思い出す。
「大丈夫か、まだ寝てなくて」
と言いながらも、「こっちに座れ」とソファーを指さした。
言われるがまま座ると。
ヒョウさんの側に立っていた男性がビシッと気を付けをする。
「俺の名前はイナズマ。兄貴の護衛係っす」
「・・・兄貴?」
ということは、イナズマと名乗る人はヒョウさんの弟?
「あ、カスミ。兄貴っていうのは本当の兄弟っていう意味じゃないから。兄弟みたいな関係ってこと」
思っていたことをすぐに理解したのか、ヒョウさんが説明を加えてくれた。
テーブルの上にユラユラとゆらめく蝋燭がやけに不気味に感じる。
私は「えーと…」と思いながらも。ヒョウさんを見る。
「イナズマ、ちょっとだけ席を外してくれるかな」
「了解っす!」
そう言うと、イナズマさんは足早に部屋から出ていく。
残された私とヒョウさんは黙ってお互いを見ていた。
何かしゃべらなきゃと思っていると。
ヒョウさんはグラスに残っていたワインらしきお酒を飲み干した。
「カスミ、ここで暮らしてほしいんだ」
「・・・はい?」