パラダイス、虹を見て。
 マシュウとは小さい頃、よく遊んだものだ。
 小さくて可愛くて。お互い一人っ子だから姉弟のように育った。
 だけど、マシュウが10歳になる年。
 家計が苦しくて出稼ぎに行くと行って。
 マシュウは出て行ってしまった。
 それっきり、会ってない。

 面影は残るけど。
 声が違う。
 大人になったマシュウが、どうしてこんなことをしているのだろう。
「もしかして、知らないの?」
「何を?」
「お姉ちゃんのせいで、村の人間がほとんど殺されたんだよ」
 キーンと。
 頭の中で嫌な音が鳴り響く。
「おじさんもおばさんもハワード伯爵に殺されたよ」
「…嘘だ」
 後ずさりしようとするが、
 マシュウは剣をつきつけたままだ。
「俺とお姉ちゃんだけ助かった」
「…ねえ、嘘だよね?」
 涙が溢れてくる。
 否定してほしかった。

「お姉ちゃんがハワード家の人間だからいけないんだよ」
「ねえ、違うよね? 嘘って言ってよ」
 泣きながら叫んだが。
 マシュウには届かない。
「まさか、ここで再会するとは思わなかったよ。家族の敵が取れて良かった」
 マシュウは真顔で言った。
「さようなら」
 剣を振りかざされて。
 思わず目を閉じる。
 弟のようにかわいがっていたマシュウに殺される。
 こんなみじめで悲しいことはない。

「こんなところで敵討ちなんて、阿呆な人間のやることでしょ」

 頭上から降ってきたのは。
 聞き覚えのある甲高い声。
 恐る恐る目を開けると。
 マシュウは倒れ込んで。
 マシュウの喉元を、ヒサメさんが踏みつけていた。

「誰か来てくれるー?」

 ヒサメさんの声が響き渡った。
< 74 / 130 >

この作品をシェア

pagetop