パラダイス、虹を見て。
 医者が来て、手当を受ける。
 足の傷も、喉元の切り傷も深くは切れてなかったそうで。
 すぐに手当は終わった。
 泥がついたツナギを脱ぎ捨て、着替えて。
 顔を洗うと。
 鏡に映る自分が青ざめて気持ち悪そうな色をしていた。

 タオルで顔をふく。
「カスミ、手当は終わったかな?」
 久しぶりに聴くヒョウさんの声。
 振り返るとスーツ姿のヒョウさんがドアの前に立っていた。

「一人で歩ける?」
「はい。大丈夫です」
 ゆっくりとヒョウさんの前へと歩く。
「申し訳ないんだけど、皆で今後について会議しなきゃいけないんだ」
「会議ですか?」
「カスミも参加してくれるかな」
 ヒョウさんは手を差し出した。
 兄だとわかっていながらも。
 どこか距離のある人。
 ヒョウさんの手を掴むと。
 ゆっくりと一階のホールへと歩き出す。

 本当は。
 独りになりたいのに。
 それは許されないことらしい。
 ヒョウさんの手は冷たかった。
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